缶詰

シュールコミカル・掌編

作者のことば

腹が減った・・・部屋中を漁って食えるものを探すと、三つの缶詰がバッグから転がり出た。ラッキー!
 

 腹が減った。
 何か食べるものはないかとワンルームの狭い部屋を探してみるが、見つかったのはテーブルの足元に落ちていたポテトチップスくらい。情けなくて尚更腹が減る。ついでに言うと、バイト代が入るのは明々後日……気持ちいいくらいのカラッケツだ。
 腹減った。
 何でもいいから食えるものを探して、部屋中を漁りまくる。台所に何もないのは百も承知なので、押入れの奥やバッグの中を重点的に調べてみた。

「お」

 何か硬いものが指に触れた。慌ててバッグを引っくり返すと、小さな缶詰が三つ、バッグの中から転がり出る。やたっ、俺まぐろのフレーク大好物なんだよな!
 しかしその缶詰は三つとも、剥き出しの銀色の胴体をさらしている。ラベルが貼られていないため、中身が何なのか分からない。
 開けりゃ分かるだろ。俺はいそいそと缶詰の一個に、尖った缶切の先端を突き刺した。その途端、

『あは〜ん』

「えぇ!?」

 缶切が開けた小さな隙間から、何とも艶かしい女の喘ぎ声が漏れてきたではないか。しかも俺好みの可愛いアニメ声……い、いや、違う!そういう問題じゃない!満腹の状態ならこのシチュエーションは嬉しいかもしれないが、俺は腹が減ってるだけなんだ、ソッチはお呼びじゃない!俺はその喘ぎ声の缶詰を引っ掴み、マッハの速さで缶切を動かした。

『あはうふえへおほうはは〜ん』

 喘ぎ声は一まとめになって飛び出し、部屋中に少しだけ漂った後、すっと消えていった。俺は呆然とその余韻を聞いていたが、ハッとして残り二つの缶詰を見つめる。まさか、これも?
 俺は、恐る恐る缶詰の一個を手に取り、缶切を突き刺す。すると、

『ぐお〜……』

 一瞬動物の唸り声かと思ったが、よくよく聞いてみると、どうやらイビキのようだ。40代くらいのおっさんが酔っ払って帰ってきて、玄関に転がったまま爆睡してる感じ?奥さん毛布くらいかけてやってよ……って、違―う!
 俺は再び音速で缶切を動かし、缶詰の蓋を一気に開く。

『ががぎごぐあふげ〜』

 喘ぎ声の缶詰と同じように、イビキもまた一まとめになって缶詰から飛び出し、部屋中に充満した後で静かに消え去った。何だってんだよ、もう! 

 まてよ。俺はそこでふと気付いた。

 喘ぎ声。イビキ。
 人間の三大欲求といわれる「性欲」「睡眠欲」が音となって出てきたわけだから、残りの缶詰には……
 そう。「食欲」の音が入っているのでは?音だけじゃ腹は膨らまないが、俺は自分の勘が正しい事を確信しつつ、最後の缶詰に缶切りを突き刺した。

 すると。 

 

『きゅぅ〜……』 

 

 小さな、腹の鳴る音がした。

「嘘だろぉ〜!?」

 ラーメンをすする音とか、鍋物のぐつぐついってる音とかしてくるのかと思いきや、まさかその手前の音、腹の虫の音が聞こえてくるとは予想外だった。缶詰に開いた小さな穴からは、次々と様々な腹の鳴る音が漏れ出してくる。

『ぐうぅ〜ぅ』

 これは肥満気味の中高年の腹の虫っぽい。

『くるるるる』

 そこいらを歩いてる気取ったOLの腹の虫かな。

『ぽこ』

 おならみたいだな、これも腹の虫なんだ。へえ…… 

 自分の腹の虫とシンクロし続ける「食欲」の缶詰の音を、俺は空きっ腹を抱えたまま、飽きもせず黙って聞いていた。二日食わなくても、まあ死にゃしねえだろ。 明々後日までの暇つぶしには丁度いいかもな……

 ……腹減った。

 

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