< 道 歌 >

のどかなる 水には色もなきものを 風の姿や 波と見ゆらん

心から よこしまに降る 雨はあらじ 風こそ夜の 窓は打つらめ

聴かせばや 信太の森の 古寺の 小夜更けがたの 雪の響きを

立ちかえり 再びものを 思うなよ いつの別れか 憂からざるべき

いにしえの 鎧にかわる 紙子には 風の射る矢も 通らざりけり

身を思う 人こそげには なかりけり 憂かるべき世の 姿を知らねば

寒熱の 地獄に通う 茶柄しゃくも 心なければ 苦しみもなし

曇りなき 心の月は 昔より 待ち惜しむべき 山の端もなし

苦をも見ず 楽をも知らぬ その時は 善悪ともに 及ばざりけり

山鳥の ほろほろと鳴く 声聞けば 父かとぞ思い 母かとぞ思う

もろこしの 山のあなたに 立つ雲は ここにたく火の 煙なりけり

悪ししとも 善しともいかに 言い果てん 折々かわる 人の心を

末の世は 祈り求むる そのことの しるしなきこそ しるしなりけり

晴れてよし 曇りてもよし 富士の山 もとの姿は 変わらざりけり

法の舟 さして行く身ぞ もろもろの 神も仏も 我れをみそなえ

憂きことは 世にふるほどの ならいどと 思いも知らで 何嘆くらん

極楽は 直き人こそ まいるなれ 曲れる心 深くとどめよ

喜ぶも 嘆くもあだに 過ぐる世を などかはきらう 心なるらん

夜もすがら 仏の道を 求むれば 我が心にぞ たずね入りぬる

出る息の 入る息待たぬ 世の中を のどかに君は 思いけるかな

夢のうちは 夢もうつつも 夢ならば 覚めては夢も うつつとぞ知れ

蔵の財よりも 身の財のすぐれたり 身の財より 心の財第一なり

法の花 八巻ばかりに 限らめや 松竹桜 当意即妙

世を捨つる 捨つる我が身は 捨つるかは 捨てぬ人こそ 捨つるなりけり

悟る道 迷う道と 分かれても 己が心の 外にやはある

なかなかに 山の奥こそ 住みよけれ 草木は人の 善悪を言わねば

露の世は 露の世ながら なりながら

さまざまに 浮き世の品は 変われども 死ぬる一つは 変わらざりけり

立ち寄りて 影もうつさじ 流れては 浮世に出づる 谷川の水

春風に ほころびにけり 桃の花 枝葉に残る 疑いもなし

奥山の 杉のむらだち ともすれば 己が身よりぞ 火を出だしける

おのずから 心も澄まず 身も澄まず かやが下葉の 露の月影

心から 流るる水を せきとめて おのれと淵に 身をしずめけり

世の中は とてもかくても 同じこと 宮も藁家も 果てしなければ

心こそ 心迷はす 心なれ 心に心 心ゆるすな

心から 心にものを 思はせて 身を苦しむる 心なりけり

悟る道 迷ふ道と 別れても おのが心の 外にやはある

晴れくもる 人の心の 内までも そらに照らして すめる月かな

心から よこしまにふる 雨はあらじ 風こそよるの まどはうつらめ

来て見れば ここも火宅の 宿ならめ 心しづめて すめばすみよし

よしあしと 思ふ心を ふりすてて ただ何となく 住めば住みよし

持つ人の 心によりて たからとも あだともなるは 黄金なりけり

心から 心にものを 思はせて 迷い易きは 心なりけり

聞くままに また心なき 身にしあらば おのれなりけり 軒の玉水

ひとの親の 心はやみに あらねども 子を思ふ故に 迷ひぬるかな

よもすがら ほとけの道を もとむれば わが心にぞ 尋ね入りける

柿崎に しぶしぶ宿を かりければ あるじの心 熟柿とぞなる

跡もなき 雲にあらそふ こころこそ なかなか月の さはりとはなれ

身をすつる すつる心を すてつれば おもひなき世に すみ染の袖

のこりゐて むかしを今と かたるべき こころのはてを しる人ぞなき

花はいろ 月はひかりを ながむれば こころはものを 思はざりけり

曇なき 空はもとより へだてねば こころぞ西に ふくる月かげ

こころをば 西にかけひの ながれゆく 水の上なる あはれ世の中

こころとり こころをえんと 意得て 心にまよふ こころ成りけり

すてやらで こころと世をば 嘆きけり 野にも山にも すまれける身を

おもいしれ うき世の中に すみぞめの 色々しきに まよふこころを

こころをば いかなるものと しらねども 名をとなふれば ほとけにぞなる

をしむなよ まよふこころの 大江山 いく野の露と 消えやすき身を

こころから ながるる水を せきとめて おのれと淵に 身をしづめけり

みな人の ことありがほに 思ひなす こころはおくも なかりけるもの

心をば こころの怨と こころえて こころのなきを こころとはせよ

夢の世と おもひなしなば 仮のよに とまる心の とまるべきやは

開くべき こころの花の 身のために つぼみ笠きる ことをこそいえ

われとおもふ 人の心に ひかれつつ おのれとおふる 草木だになし

いにしえは こころのままに したがひぬ 今は心よ 我にしたがへ

いはじただ こと葉の道を すぐすぐと ひとのこころの 行こともなし

さだまりて 山姥といふ ものはなし 心の変化 これをいふなり

山姥と いふはこころの 名なりけり 心のゆかぬ おくやまもなし

後の世の 願うこころは かろくとも ほとけの誓い 重き石山

いまははや こころにかかる 雲もなし 月のいるべき 山しなければ

あら楽や 虚空を家と 住なして 心にかかる ぞうさくもなし

いづるとも 入るとも月を 思はねば 心にかかる 山の端もなし

鬼と云ふ おそろしきもの どこにある 邪見の人の 心に住むなり

ほとけとて ほかにもとぬる こころこそ まよひの中の まよひなりける

はじめなく をはりもなきに わがこころ うまれ死するも 空の空なり

くもりなき 刃すずしき 剣太刀 とぎし心の ますかがみかな

心こそ もろこしまでも あくがぐれ 月はみぬ世の しるべならねど

うき世には うれへの雲の しげければ 人の心に 月ぞかくるる

秋といへば 人の心に やどりきて 待にかがはぬ 月のかげ哉

そこはかと 心にそめぬ したくさも かるればよわる 蟲のこゑごゑ

ひとしれぬ 人の心の かねことも かはればかはる 此世なりけり

白雲と まがふさくらに さそはれて 心ぞかかる 山のはごとに

いかにして しづ心なく 散花の のどけき春の 色と見ゆらむ

いつしかと けふぬぐ袖よ 花の色 うつればかはる 心なりけり

雲出でし 空は晴れけり 托鉢の こころのままに 天の与へを

世の中に 同じ心の 人もがな 草のいほりに 一夜語らむ

心あらば 尋ねて来ませ 鶯の 木伝ひ散らす 梅の花見に

心あらば 虫の音聞きに 来ませ君 秋野ののらとも なれるわがやど

この僧の 心を問はば 大空の 風の便りに つくと答へよ

わが心 雲の上まで 通ひなば 到らせたまへ 天つ神ろぎ

ひさかたの 雲吹き払へ 天つ風 うき世の民の 心通はば

侘びぬれど 心は澄めリ 草のいほ その日その日を 送るばかりに

わがこころ 有哉不有と 探り見れば 空吹く風の 音ばかりなり

うつしみの うつつ心の やまぬかも 生れぬ先に わたしにし身を

晴るるかと 見れば曇れる 秋の空 うき世の人の 心見よとや

今更に 死なば死なめと 思へども 心に副はぬ 命なりけり

底に徹ふる 氷は解くれども 空蝉の 人の心の など解けがたき

鳥は鳴く 四方の山べに 花は咲く 春の心の 置きどころなき

歌もよまむ 手毬もつかむ 野にも出む 心ひとつを 定めかねつも

世の中の 絆を何と 人問はば 尋ね極めぬ 心と答えよ

いかなるが 苦しきものと 問ふならば 人をへだつる 心と答えよ

いにしへは 心のままに 従へど 今は心よ 我に従え

心をば 松にちぎりて 千年まで 色も変らで あらましものを

梅が花 老が心を なぐさめよ 昔の友は 今あらなくに

秋の夜の 月の光を 見るごとに 心もしぬに 古おもほゆ

いつまでか なに嘆くらむ 嘆けども つきせぬものを 心まどひに

子を思ひ 思ふ心に まかりなば その子になにの 罪を負ふせむ

おい人は こころよわきものぞ みこころを なぐさめたまへ あさなゆふなに

子供らを 生まぬ前とは 思へども 思ふ心は しばしなりけり

花見ても いとど心は 慰まず 過ぎにし子らの ことを思ひて

亡きをりは 何をたよりに 思はまし 有るにならひし 今日の心は

水の上に 数書くよりも はかなきは おのが心を 頼むなりけり

ぬばたまの 夢のうき世に ながらへて よしや心に かなひたりとも

心もよ 言葉も遠く とどかねば はしなく御名を 称へこそすれ

手折りこし 花の色香は うすくとも 憐みたまへ 心ばかりは

わが園に 植えて育てし 百草は 風の心に 任せたりけり

住めばまた 心おかれぬ 宿もがな 仮の篠屋の 秋の世の月

鶯の たえてこの世に なかりせば 春のこころは いかにあらまし

むらぎもの 心たのもし 春の日に 鳥のむらがり 遊ぶを見れば

声たてて 啼けほととぎす ことさらに 尋ね来したる 心知りなば

白露に 咲きみだれたる 萩の花 錦を織れる 心地こそすれ

置く露に 心はなきを もみじ葉の 淡きも濃きも おのがさまざま





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