< 一 茶 と わ ら べ う た >


山寺や 雪の底なる 鐘の音

青梅に 手をかけてねる 蛙哉

しづかさや 湖水の底の 雲のみね

鳥と共に 人間くぐる 桜哉

正月の 子供に成て 見たき哉

もたいなや 昼寝して聞 田うへ唄

満月に 隣もかやを 出たりけり

ほたるよぶ よこ顔過(よぎ)る ほたる哉

ぬっぽりと 月見顔なる かがし哉

夕日影 町一ぱいの とんぼ哉

足元へ いつ来たりしよ 蝸牛

ひとりなは 我星ならん 天川

我星は どこに旅寝や 天の川

田の人の 笠に糞(はこ)して かえる雁

懐へ 入らんとしたる 小てふ哉

蒲公英(たんぽぽ)に 飛くらしたる 小川哉

朝やけが よろこばしいか 蝸牛

夜の雪 だまって通る 人もあり

春風に 箸を掴んで 寝る子哉

曙の 空色衣 かへにけり

たまに来た 故郷の月は 曇りけり

帋漉(かみすき)に うるさがらるる 小てふ哉

うぐいすも うかれ鳴きする 茶つみ哉

山鳥の ほろほろ雨や とぶ小蝶

ただ頼め 花ははらはら あの通り

蝶とぶや 此世に望み ないように

雪とけて クリクリしたる 月よ哉

夕ざくら けふも昔に 成にけり

草そよそよ 簾のそより そより哉

けいこ笛 田はことごとく 青みけり

涼風や 力一ぱい きりぎりす

大空の 見事に暮る 暑哉

こほろぎの なくやころころ 若い同士

どちらから 寒くなるぞよ かかし殿

白露に まぎれ込だる 我家哉

壁の穴や 我初空も うつくしき

晴天に 産声上げる 雀かな

春風や 牛に引かれて 善光寺

朝顔や あかるるころは 昼も咲

石仏 誰が持たせし 草の花

秋の夜や 障子の穴が 笛を吹

むら時雨 山から小僧が ないて来ぬ

うつくしや 雲雀の鳴きし 跡の空

夕富士に 尻を並べて なく蛙

蝶が来て つれて行けり 庭のてふ

さく花の 中にうごめく 衆生哉

雉うろうろ うろうろ門(かど)を 覗くぞよ

亡母や 海見る度に 見る度に

青空の やうな帷(かたびら) きたりけり

涼しさよ 手まり程なる 雲の峰

蝉鳴や 赤い木の葉の はらはらと

さくさくと 飯くふ上を とぶ蛍

行け蛍 手のなる方へ なる方へ

納豆の 糸引張って 遊びけり

手枕や 蝶は毎日 来てくれる

西山や おのれがのるは どのかすみ

泣な子供 赤いかすみが なくなるぞ

春の風 おまんが布の なりに吹

名月や 家より出(いで)て 家に入

うつくしや 若竹の子の ついついと

山草に 目をはじかれな 蝸牛

行な蛍 都は夜も やかましき

蝉なくや 我家も石に なるように

投出した 足の先也 雲の峰

人のため しぐれておはす 仏哉

長き夜や 心の鬼が 身を責る

御地蔵と 日向ぼこして 鳴(なく)ち鳥

霰ちれ くくり枕を 負う子ども

我郷の 鐘や聞くなり 雪の底

麦に菜に てんてん舞の 小てふ哉

陽炎に くいくい猫の 鼾(いびき)かな

蝸牛 見よ見よおのが 影ぼふし

三日月に 天窓(あたま)うつなよ ほととぎす

ふんどしに 笛つつさして 星迎

青空に 指で字をかく 秋の暮

こおろぎの ふいと乗けり 茄子馬

笠森の お仙出て見よ 玉霰

猫の子が ちょいと押へる 落ち葉哉

雁よ雁 いくつのとしから 旅をした

石なごの 一二三を蝶の 舞にけり

瓜西瓜 ねんねんころり ころり哉

おこよ来よ 転ぶも上手 夕涼

井の底を ちょっと見て来る 小てふ哉

ふしぎ也 生れた家で けふの月

寝て起きて 大欠伸して 猫の恋

云ぶんの あるつらつきや 引きがえる

大の字に 寝て見たりけり 雲の峰

枯れすすき むかし婆婆鬼 あったとさ

星様の ささやき給ふ けしき哉

故郷は かすんで雪の 降りにけり

月ちらり 鶯ちらり 夜は明ぬ

大猫の 尻尾でじゃらす 小てふ哉

雪車(そり)負うて 坂を上るや 小さい子

這へ笑へ 二つになるぞ けさからは

梅咲や 障子に猫の 影法師

山の月 花ぬす人を てらし給ふ

石畳 つぎ目つぎ目や 草青む

葎から あんな小蝶が 生れけり

逃て来て ため息つくか はつ蛍

戸口から 青水な月 月夜哉

露の玉 つまんで見たる わらべ哉

東風(こち)吹や 堤に乗たる 犬の顎

遠山が 目玉にうつる とんぼ哉

春めくや 藪ありて雪 ありて雪

大寒と 云顔もあり 雛たち

蝶見よや 親子三人 寝てくらす

猫の子の ほどく手つきや 笹粽

まりそれて ふと見付けたる 雲雀哉

膝の子や 線香花火に 手をたたく

雪ちらちら 一天に雲 なかりけり

有明の すてっぺんから ほととぎす

雪の原 道は自然と 曲がりけり

ののさまと 指(ゆびさし)た月 出たりけり

井の底も すっぱりかわく 月夜哉

我星は ひとりかも寝ん 天の川

町中や 列を正して 赤蜻蛉

わらんべは 目がねにしたる 氷哉

春立や 愚の下に又 愚にかへる

門の蝶 子が這へばとび はへばとぶ

きりぎりす 鳴くやつづいて 赤子なく

おこが手に 書いて貰ふや 星の歌

雪ちらり ちらり見事な 月夜哉

僧になる 子のうつくしや けしの花

寝た下を 木枯しずうん ずうん哉

蝶々を 尻尾でなぶる 子猫哉

鶯や 家半分は まだ月夜

形代に さらばさらばを する子哉

うつくしや 雲一つなき 土用空

子どもらが しゃっくりするや わか葉陰

松虫や 素湯もちんちん ちろりんと

うつくしや 年暮きりし 夜の空

散花の ぱつぱと春は なくなりぬ

青空の きれい過たる 夜寒哉

名月や 仏のやうに 膝をくみ

うまさふな 雪はふふはり ふふはりと

秋風に 歩いて逃げる 蛍かな

ゆうぜんとして 山を見る蛙かな

大蛍 ゆらりゆらりと 通りけり

やせ蛙 まけるな一茶 これにあり

我ときて 遊べや親の ない雀

うつくしや 障子の穴の 天の川

雪とけて 村いっぱいの 子供かな

鳴く猫に 赤ん目をして 手毬かな

心から しなのの雪に 降られけり

雀の子 そこのけそこのけ お馬が通る

蟻の道 雲の峰より つづきけん

やれ打つな 蝿が手をする 足をする

盥(たらい)から 盥へうつる ちんぷんかん

露の世は 露の世ながら さりながら

涼風の 曲がりくねって 来たりけり

大の字に 寝て涼しさよ 寂しさよ

天ひろく 地ひろく秋も ゆく秋ぞ

雲に鳥 人間海に 遊ぶ日ぞ

なまけるな イロハニホヘト 散桜

初雪や イロハニホヘト 習い声

イロハニホヘトを習ういろりかな

花の月とちんぷんかん浮世かな

かげろうに くいくい猫の いびきかな

風ひやり ひやりからだの しまりかな

春雨や 猫におどりを おしえる子

わんぱくや 縛られながら よぶ蛍

とべよ蚤 同じ事なら 蓮の上

馬の屁に 目覚めてみれば 飛ぶ蛍

手の皺が 歩みにくいか 初蛍

寝るてふに かしておくぞよ 膝がしら

寝た犬に ふはとかぶさる 一葉哉

猫の子の くるくる舞や 散る木の葉

どこを押せば そんな音が出る 時鳥

手まり唄 一ひ二ふ御代の 四谷哉

鳴く猫に 赤ん目と云 手まり唄

柴門や けまり程でも 手まり唄

猫の子に かして遊ばす 手まり哉

つく羽を 犬が加えて 参りけり

つく羽の 落る際也 三ヶの月

つく羽の 転びながらに 一つかな

里しんとして づんづんと凧 上がりけり

大凧の りんとしてある 日暮哉

日の暮に 凧の揃ふや 町の空

切凧の くるくる舞うや 御茶ノ水

乞食も 福大黒の つもり哉

舞込だ 福大黒と 梅の花

あの月を とってくれよと 泣く子かな

青空に きず一つなし 玉の春

朧夜や 天の音楽 聞し人




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