< 一 休 語 録 T >


有漏路(煩悩)より無漏路(悟り)へ帰る一休 雨降らば降れ風吹かば吹け

釈迦といういたずら者が世に出でて 多くの者を迷わするかな

女をば法の御蔵と言うぞ実に 釈迦も達磨もひょいひょいと生む

心とはいかなるものをいうやらん 墨絵にかきし松風の音

門松は冥途の旅の一里塚 めでたくもありめでたくもなし

死にてのちいかなるものとなりぬらん めし酒だんご茶とぞなりぬる

雲の身に思う心も雲なれば 雲と見るこそもとの雲なれ

月は家心は主と見る時は なお仮りの世の住まいなりけり

花を見よ色香もともに散り果てて 心なきだに春は来にけり

蓮葉の濁りに染まぬ露の身は ただそのままの真如実相

仏とて外に求むる心こそ 迷いの中の迷いなりけり

散れば咲き咲けばまた散る春ごとの 花の姿は如来常住

そのままに生まれながらの心こそ 願わずとても仏なるべし

露と消えまぼろしときゆ稲妻の 影のごとくに身は思うべし

願わくばよき事はせよ悪しき事は 二世の障りと深くつつしめ

楽々と心からにて彼の岸に 渡るもやすき法の舟人

報いぞと見るは愚かの心かな よき事につき悪しき事にも

有にもあらず無にもあらざるその中に 我がふる里の人の知らずや

国いずく里はいかにと人問わば 本来無為のものと答えよ

吹くときは音さわがしき山風の 吹かぬときにはなにとなるらん

明日までと世をばたのむぞ朝顔の 露よりもなおあだなし身を

目の前の迷い悟りのところをば まことの道を知る人ぞ知る

見るごとにみなそのままの姿かな 柳はみどり花はくれない

色相はそのときどきに変わるども 不生不滅の心変わらじ

澄み登る心の月の影はれて 隈なきものはもとの境界

願わずと道の道たる道に行かん 身の限りある道を道にて

世の中に秋風立ちぬ花すすき 招かばゆかん野辺も山辺も

くもりなきひとつの月を持ちながら 浮世の闇に迷いぬるかな

我にありと思う心を捨てよただ 身の浮雲の風にまかせて

世の中はまどろまで見る夢のうち 見てやおどろく人のはかなさ

もとの身はもとの所へ帰るべし いらぬ仏を訪ねばしすな

たれもみな生まるも知らず住み家なし 帰らばもとの土になるべし

分け登る麓の道は多けれど 同じ高嶺の月をこそ見れ

はじめなく終わりもなきにわが心 生まれ死すると思うべからず

雨霰雪や氷とへだつれど とくれば同じ谷川の水

はかなしや今朝見し人のおもかげは 立つは煙の夕暮れの空

焼けば灰埋めば土となるものを 何か残りて罪となるらん

桜木をくだきてみれば花もなし 華をば春の空ぞ持ち来る

何事もみないつわりの世なりけり 死ぬるというもまことならねば

世の中は白黒赤く移りゆく 鏡ひとつはもとの身にして

山は青く水は流れて白けれど そのままもとの色にぞありける

この歌を見んと思わば耳に見て 目にてよろずの声を聞くべし

本来もなきいにしえの我れなれば 死に行くかたも何もかもなし

いにしえも今も変わらぬ我れなれば 我れというべき言の葉もなし

世の中の嫁が姑に早やなれば 人もほとけになるはほどなし

ゆく水に数書くよりもはかなきは ほとけを頼む人の後の世

問えば言わず問わねば言わぬ達磨殿 心のうちに何かあるべき

嘘をつき地獄に落つるものならば なき事作る釈迦いかがせん

世の中の人の心の仏なれば 釈迦や阿弥陀の晴れ渡るかな

知らざるはほとけも人も同じこと さてこそ人の迷いこそすれ

極楽も地獄も知らぬ思いてに 生まれぬ先のものとなるべし

経を見てその善悪を取りぬれば 善悪ともに悪にこそなれ

一休の釈迦をそしりたお蔭にて 多くの人がうろたえぞする

誤りて不動をよきと思うなよ その心こそあくまとはなれ

掘らぬ井にたまらぬ水の波たちて 影も形もなきものぞ汲む

嘘をつき嘘と知らする嘘こそは これぞまことの赤まことかな

目には見て手には取られぬ月の中の 桂の如き君にぞありける

夜もすがら仏のみちをたずぬれば わが心にぞたずね入りぬる

思い入れば人もわが身もよそならず 心のほかに心なければ

帰りつつまた立ち帰りよく見れば 思う心もその心かな

心とて実には心のなきものを 悟るはなにの悟りなるらん

悟らぬも悟りも同じ迷いなり 悟らぬ先を悟りとぞいう

何事もむなしき夢と聞くものを 覚めぬ心を嘆きつるかな

覚めぬれば覚めぬ先こそ覚めつるに 覚めぬ心のなど夢ならん

無我無心我れを捨てたる我が名をば 問うも答うも山びこの声

嘘の皮むいて捨てたるそのあとは 釈迦も凡夫も同じ味わい

悟り得てなに楽しまん無一物 本来喰う(空)て寝たり起きたり

木仏が人の願いを叶えれば 横槌にても祈るべきかは

木仏に性根がありてはたらかば 火に打ちくべて舎利を取らなん

心こそ心まどわす心なれ 心に心こころゆるすな

心をば取ると思うな捨てもすな 取捨のふたつを無分別にて

もとの身はもとの所へ帰るべし いらぬ所を尋ねばしすな

生きば生きん死ななば死なんと思えただ その行き先は有無にまかせて

一物もなきを賜わる心こそ 本来空の妙味なりけり

生まれては死ぬるなりけりおしなべて 釈迦も達磨も猫も杓子も

白露の己が姿をそのままに 紅葉に置けば紅の玉

仏法は鍋のさかやき石のひげ 絵にかく竹の共擦れの声

世の中は食うてはこして寝て起きて さてそののちは死ぬるばかりよ

本来の面目坊が立ち姿 一目見しより恋とこそなれ

ひとり来てひとり帰るも迷いなり 来たらず去らぬ道を教えん

無しと言えば無しとや人の思うらん 答えもぞする山びこの声

有りと言えば有りとや人の思うらん 答えてもなき山びこの声

わが宿は柱も建てず葺きもせず 雨にもぬれず風もあたらず






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