< 一 休 語 録 U >


鬼という恐ろしものはどこにある 邪見な人の胸に住むなり

何事もみないつわりの世の中に 死ぬるというぞ誠なりける

生死もみないつわりの世の中に 誠というもなにあらばこそ

生まれ来たその前生を知らざれば 死に行く先はなお知らぬなり

胸の火の燃え立つ時のあるならば 心の水をせき止めて消せ

世の中の生死の道に連れはなし ただ寂しくも独死独来

から衣またから衣から衣 かえすがえすもから衣かな

今くうてくうてもくうかくうか坊 くうかがくうはくうにくうなし

降らば降れ降らずば降らず降らすとも 濡れて行くべき袖ならばこそ

一切の衆生と仏へだてなし 隔つるものは迷い一念

問えば言わず問わねば言わぬ達磨殿 心のうちに何かあるべき

聞きしより見て恐ろしき地獄かな しにくる人の落ちざるはなし

さとりなば坊主になるな魚くへ 地獄へいって鬼にまけるな

三国の法はしなじな多けれど 釈迦の教えにまされるぞなき

一心にまことの道にいる人の その行末は子孫繁盛

万法の行はよろずの事なれば こころごころに道をつとめよ

貴賤智愚僧俗男女別なれど 菩提の道はひとつ事なり

仏性は不生不滅のものなれば 迷えば生死流転とぞ知れ

世の常に工夫観念つとめなば まことのときに心うごかし

福徳は願うに来たるわざわいは つつしむかどに入りぬぞと聞く

つらつらと名利もとむる人見れば 慈悲ある人は仏ならまし

世の中に我れぞ悟ると自慢して 名利もとむる人のおおさよ

名と利とをもとむることの苦患やな 人につかわれ財につかわれ

財宝は身のあだなりと聞きながら なおももとむる心はかなき

釈迦もまた阿弥陀ももとは人ぞかし 我れもかたちは人にあらずや

極楽も地獄も我れにあるなれば 悪念起こる心制せよ

人の非は知りやすけれどおのが非は 智慧も知ることかたきとぞ聞く

今どきの僧はなかなか俗よりも 因果菩提を知らぬ仏道

物ごとに執着せざる心こそ 無相無心の無住なりけり

皆人に教えの道にまかせなば 本来空に帰りこそすれ

生は寄り死は帰るぞということは 古き文にぞおおく見えけり

旅はただ浮きものなるにふる里の 空に帰るをいとうはかなさ

障りなく本来空に帰るこそ これや西方往生と知れ

口ほどに身の行ないのならざれば わが心にも恥じられぞする

金持ちを十人寄せて眺むれば 中に五人は無学文盲

両眼の明らかなるを持ちながら おんなにあえば目なしとぞなる

親は過去わが身は現世子は未来 後生大事と子をば育てよ

ほとけには心もならず身もならず ならぬものこそならぬなりけり

釈迦達磨定家家隆も知らぬ歌 くその役にも立たぬなりけり

面影は変わらば変われ年もよれ 無病息災死なばごっとり

懲りもせず浮世の闇に迷うかな 身を思わぬは心なりけり

明日有りと思う心にほだされて 今日もむなしく日を送りけり

金銀は慈悲と情と義理と恥 身の一代に使うためなり

今日褒めて明日悪く言う人の口 泣くも笑うも嘘の世の中

一休も破れ衣で出るときは 乞食坊主と人は言うらん

振袖と留袖とこそ変われども 裸にすれば同じ姿よ

皮にこそおとこおんなのへだてあり 骨には変わる人形もなし

生まれては死ぬるなりけりおしなべて 釈迦も達磨も猫も杓子も

ひとり来てひとり帰るも迷いなり 来たらず去らぬ道を教えん

極楽は十万億土遥かなり とても行かれぬわらじ一足

お引きとりくだされなどとしゃれこうべ 嘘の皮をば面にかぶりて

昨日過去今日の現世に明日未来 起きての神に寝ての身仏

世の中は食うて稼いで寝て起きて さてそのあとは死ぬるばかりぞ

あら楽や虚空を家と住みなして 心にかかる造作もなし

わが体焼くな埋むな野に捨てて 痩せたる犬の腹を肥やせよ

我こそは屁たれ坊主よ芋食うて 仏(ぶっ)と消えなん身こそ安けれ

始めなく終わりもなきにわがこころ 生まれ死するも空のくうなり

三とせまで作りし罪ももろともに ついには我れも消え果てにけり

論語読み論語知らずは是非もなし 無知無学なる人に笑われ

大方は学者の智慧は付け焼刃 生まれの智慧をみがきたまえや

読み書きを人に教ゆる程ならば おのが身もちを深くたしなめ

善悪の智慧はその身に生まれつく 身を知るために習う学問

生まれつくわが悪念を直さずに 学問すれば身を害すもの

万能にすぐれし人もかりそめに 気の短きは無学同然

万能にかなわずとても己が身に その日の無事をする事を知れ

外よりも来る盗人は限りあり 限りの知れぬ内の盗人

万物に迷えば子ども何事も 迷わぬ時はおとこ一人

教えをば守りたまえや弟子師匠 守らぬ時は同じ友達

嘆きには嘆きはなきに悦びを 求むればこそ嘆きとはなる

世の中は乗合舟の仮住まい よしあしともに名所旧跡

後生とは人の心の常にあり 寝たり起きたり居たり立ったり

そっとせよ人の心と井戸の水 かきまわしてはすべて泥水

泥水も澱めて使え人ごころ 澄ませば清き皆是仏水

風鈴も風なき時に声はせず 風にもまれて響く風鈴

死んでから仏になるはいらぬもの 生きたるうちによき人になれ

年寄りて子にあきらるる親の身は わが愚痴ゆえと心たしなめ

子の為とわが身の為に嫁を取り それを憎むは己が身知らず

悪しくともただ一筋に捨つるなよ 渋柿を見よ甘干となる

智慧もなく情も知らぬ金持ちは 二代続かずさても気の毒

金持ちのあるがうえにも銭金を 増やしたがるを貧人という

正直に貧に暮らして望みなく 欲心なきを福人という

子どもにはただ父親を恐がらせ あたたやおっか甘口と知れ

おしなべて心一つと知りぬれば 浮世に巡る道も迷わず

朝ごとに心を清く洗うべし 顔に目くそ鼻くそもあり

人心鏡に写るものならば さこそ姿の醜かるらん

見目悪く色黒くとも人はただ 心ことばを白く清かれ

夢ぞとも知らで暮らしし愚かさよ 醒めて悔しき老いの暁

言の葉も及ばぬ法の道芝を 心の外に誰に問わまし

地獄とは色と欲とに酒遊び これを恐れぬ人の愚かさ

木の阿弥陀金の弥勒に石地蔵 尊み拝む人ぞおかしき

極楽を願うは老いの欲心ぞ 死んでの後も楽をする気か

金貯めず物蓄えず惜しからず 着の身着のままこれが極楽

何事もとかく世間の悪しき事 見るにつけてもわれをたしなめ

明日という心にものをさぐられて 今日もむなしく暮れ果てにけり

明日あると思う心はあだ桜 夜半は嵐の吹かぬものかは

死にはせぬどこへも行かぬここに居る たずねはするなものは言わぬぞ

仏には心もならず身もならず ならぬものこそ仏なりけり

仏性を見るとは何を言うなれば 不生不滅の道理知るなり

形なきものは形をあらわして 形はものにかくれぬものを

誰(た)そに誰そ誰そ誰そに誰そ誰そに誰そ 誰そに誰そとて何もなきかな

直なるもゆがめる川も川は川 仏も下駄も同じ木のきれ

人は武士柱は檜魚は鯛 絹は紅梅花は御吉野

重くとも肩に遊べよ福の神 軽くといやよ貧乏の神






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